実はここ1週間くらい、宿泊税の情報収集や反論作成に追われておりました。
事の発端はこちら。
やめましょう、思い止まって下さい。
— 小田原市減税会 (@odawara_genzei) January 15, 2025
観光客が平塚に逃げる事はなくても、出張者が逃げます(経費精算が面倒になる)
宿泊業の税務処理にもダメージです。 pic.twitter.com/bjQf7LPWzR
いや、マジか。熱海市に導入が決まった事は知っていましたし、他県でも徐々に宿泊税の展開が進んでいる事は他の減税会の人からも聞いておりましたが、まさか本当に小田原市で検討に入るとは思ってませんでした。
小谷市議の一般質問の内容はブログに挙げて下さっているので、参照頂ければと思います。
当たり前ですが、当会は減税会なので反対に回らざるを得ません。
宿泊税反対の理由
小谷市議の人柄は先日の市政報告会でお話しした感じ、とても良い人なので理解はしてくれるだろうと期待はしつつも、ここでは淡々と反対する根拠とアクションについてのみ述べていきたいと思います。
理由1 観光客=宿泊客ではない(課税根拠が不適切)
市や観光協会の努力と円安効果などもあり、小田原市を訪れる観光客は増加傾向にあります。それ自体は喜ばしい事ですが、観光客増加の恩恵の全てを宿泊業への恩恵とするのはミスリードと考えます。理由は以下の図で表現が可能です。

左円の観光客(日帰り観光客)が増えれば、多少の観光宿泊客の増加はあるのでしょう。だからと言って、宿泊業だけに税の徴収負担を背負うのは明らかに対象範囲を取り違えています。
実際、小田原に来る観光客の大半は日帰り客であり、新幹線・ロマンスカー・東海道線の鉄道の便の良さと駅から程よく近い小田原城、駅直結のミナカが観光の目玉です。
理由2 期待するほどの歳入にはならない
一番イメージしやすい熱海市の事例を参考に、小田原市での宿泊税歳入を試算しましたが、期待される歳入は導入コストや徴税コストに見合わない可能性が高いという結果になりました。
熱海市の計算モデル:
- 宿泊施設数: 約360施設(読売新聞調べ)
- 宿泊税導入準備経費: 約1.3億円
- 宿泊税歳入: 年間5.7億円(200円/人, 300万人/年, 徴税コスト0.3億)
小田原市の試算モデル:
- 宿泊施設数: 約31施設(小田原市観光課)
- 宿泊税導入準備経費: 約5,000万円(仮定)
- 宿泊税歳入: 年間1,000万円〜2,000万円(100円/人, ※30万人/年, 徴税コスト0.1億)
※宿泊税導入準備経費・・・賦課徴収システム構築業務委託、宿泊税システム整備費補助金、制度周知用ポスター作成等経費等の0年度支出です。
熱海市と比較しても小田原市の宿泊施設規模や観光客数では、宿泊税による十分な歳入は見込めません。このような状況下で、導入費用や徴税コストを上回る効果を期待することは困難です。
要は熱海市と比べて小田原市は宿泊施設が少なすぎるのです。
※30万人 法政大学 日本統計研究所 「神奈川県の市町村別延べ宿泊者数の計算」
理由3 旅館業・宿泊業からの反発
負担者と受益者が違うことは理由1で述べた通りですが、実際のところ旅館業組合が反発を起こし始めています。観光振興予算の恩恵と事後の増税を担保にしたバラ撒きに期待したものの、実態は自分たちだけの負担が観光業全体へのバラ撒きに変貌し、「自分たちだけがババを摑まされた」事実に気が付いたからでしょう。
平成30年に宿泊税を導入した京都市旅館業組合は、令和6年になってやっと自分がカモにされていた事に気が付いたようです。
しかしその実態にはもう少しグラデーションがあり、特に県が宿泊税を導入する時には反発が強まります。その理由は明確です。県が観光で潤っている自治体の宿泊業から税を取って他の自治体に配るような事は誰も容認できないからです。当然、反発者の中に市町村議会も含まれます。
県の勝手な都合の課税で自分の市町村の歳入が1円でも棄損することを容認すれば、住民や宿泊業から市町村議会と首長の存在意義を疑われることになります。
俯瞰してみると、県と市町村、観光業と宿泊業の4者の中の醜い利権争いが本質であることに気づくはずです。(四者の中で宿泊業だけがカモになる構図ですが)
設立『宿泊税を憂慮する会』 宮城のホテル・旅館などの組合 『宿泊税』導入に反対する団体を設立
宿泊税 反発相次ぐ 函館で道と市が業者向け説明会
北海道宿泊税「不認可を」 全旅連、総務省に要望書
理由4 若者層が経営する簡易宿泊業への負担が特に大きい
加えて一律100円×人数負担の考え方も公平ではありません。
根府川のヒルトンホテルと栄町のバックパッカー向けのゲストハウスやホステルの宿泊単価が同じではない以上、1泊4万円のホテルの100円と1泊4000円のホステルの100円を公平負担であるという理屈には無理があります。
小田原駅前周辺に限った話にはなりますが、簡易宿泊施設が9施設あります。彼らの宿泊単価を見てみますと、3000円〜5000円/泊が中心価格帯であり、100円とは言え2%〜3%の税負担と徴収負担が彼らを襲います。
簡易宿泊業の競争相手は決して同業者だけが相手ではありません。
「安く寝られればどこでも良い人たち」を主要客なので、彼らのライバルは健康ランドの深夜滞在であったり、マンガ喫茶の深夜パックなのです。
人手不足の中でコロナ以降に開業して間もない彼らには宿泊税の負担は重いのではないでしょうか?
まとめ
ここまで反対の論点を4つほど挙げましたが、ポイントは事前準備・歳入・手間を見ると割に合わないと言う点に尽きると思います。
歳入見込みが少なすぎて宿泊税の導入に踏み切る可能性は現段階ではそれほど高くないと思いますが、飲食業や交通、その他観光業の方も「宿泊業じゃないから関係ない」ではなく関心を持って動向を注視して頂きたいと思います。
宿泊税が導入された次に「観光飲食税」が検討されても、ここで宿泊業を見捨ててしまうと宿泊業の人たちは飲食業を助けようとは思わないでしょう。
そして最後にはこうなります。これが実態なのです。
※実際のやり取りの詳細や結果は会員サイトの方で共有致します。